ガートナーが発表した2026年の10大テクノロジートレンド、開発者が今すぐ押さえるべき技術トレンドはこれだ!

ガートナーが発表した2026年の10大テクノロジートレンド、開発者が今すぐ押さえるべき技術トレンドはこれだ!

最終更新日:2025年12月17日公開日:2025年12月17日
益子 竜与志
writer:益子 竜与志
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ガートナーが2025年10月に発表した「2026年の戦略的テクノロジートレンドTop 10」は、AIネイティブ開発、コンフィデンシャルコンピューティング、ドメイン特化型言語モデルなど、開発者の日常業務に直結するトピックが並んでいます。

「来年のトレンドなんて遠い話では?」と思うかもしれませんが、実は今から準備すべき項目ばかりです。本記事では、10のトレンドの中から開発者視点で特に重要な5つをピックアップして解説します。

3つのテーマに分類される2026年トレンド

ガートナーは10のトレンドを以下の3テーマに分類しています。

The Architect(構築者)は、AIとデジタルトランスフォーメーションのための、セキュアでスケーラブルな基盤の構築を指します。The Synthesist(統合者)は、AIモデル、エージェント、物理世界を融合させ、新たな価値を創出すること。The Sentinel(守護者)は、AIファースト時代における信頼、セキュリティ、評判の保護です。

この分類自体が示唆的です。2026年はAIの「導入」フェーズを超え、「深化と実用化」のフェーズに入ることを示しています。

AIネイティブ開発プラットフォーム

従来の「Copilot(副操縦士)」型支援から、「Agentic(自律エージェント)」型開発へのパラダイムシフトが起きています。

AIを単なるIDEプラグインとしてではなく、開発ライフサイクルの中核エンジンとして据えたプラットフォームが登場してきています。要件定義からコーディング、テスト、デプロイまでを、相互に連携する専門化されたAIエージェント群が自律的に実行する世界観です。

ガートナーは、「2030年までに80%の組織で大規模なソフトウェアエンジニアリングチームがより小規模で機敏なAI拡張チームへ進化する」と予測しています。

これは「エンジニアの仕事がなくなる」という話ではありません。むしろ「小さなチームでも大きなことができるようになる」という可能性の話です。私はこれを「Tiny Teams(極小チーム)」時代の到来と捉えています。

コンフィデンシャルコンピューティング

AIワークロード、特に機密データを扱うLLMの推論・学習における必須インフラとして注目されています。

ハードウェアベースの「Trusted Execution Environment(TEE)」内で計算を実行し、データを使用中の状態であってもインフラ管理者やクラウドプロバイダーから完全に隔離・保護する技術です。

Intel SGX/TDX、AMD SEV-SNPに加え、最新のNVIDIA H100などのGPU自体がTEE機能を搭載し始めています。

ガートナーは「2029年までに、信頼できないインフラ上で処理される業務の75%以上がコンフィデンシャルコンピューティングによって保護される」と予測しています。

開発者としては、「データを使用中も暗号化する」という発想の転換が必要です。これまでは「保存時暗号化」「転送時暗号化」が主流でしたが、「処理時暗号化」が標準になる可能性があります。

ドメイン特化型言語モデル(DSLMs)

汎用LLMの限界(ハルシネーション、一般化しすぎた回答)を突破するための主要戦略です。

特定の業界、機能、またはデータセットに特化してトレーニングまたは微調整されたモデルを指します。汎用モデルより小型でありながら、特定タスクでは高い精度とコンプライアンス準拠を実現します。

注目すべきはRAFT(Retrieval Augmented Fine-Tuning)という手法です。これはRAGとファインチューニングのハイブリッドで、モデルに「ドメイン知識」そのものを学習させるだけでなく、「検索されたドキュメントの中から正解を導き出し、無関係な情報を無視する方法」も学習させます。

ガートナーは「2028年までに、企業が利用する生成AIモデルの50%以上がドメイン特化型になる」と予測しています。

開発者としては、「どの汎用LLMを使うか」だけでなく「自社ドメインにどう特化させるか」という視点が重要になってきます。

ジオパトリエーション

「Geopolitics(地政学)」と「Repatriation(本国回帰)」を組み合わせた概念で、データ主権の最終形態とも言えます。

地政学的リスクを回避するために、ワークロードやデータをグローバルなパブリッククラウドから、よりローカルなオプション(ソブリンクラウド、リージョナルプロバイダー、オンプレミス)へ意図的に移動させる戦略です。

ガートナーは「2030年までに、欧州および中東の企業の75%以上が地政学的リスクを低減するために仮想ワークロードをジオパトリエートする」と予測しています(2025年時点では5%未満)。

日本企業にとっても無関係な話ではありません。経済安全保障推進法の施行や、データローカライゼーション規制の強化を考えると、「どこでデータを処理するか」は技術選定の重要なファクターになりつつあります。

マルチエージェントシステム(MAS)

複数のAIエージェントが協力して複雑な目標を達成する分散ネットワークです。

モジュール式で再利用可能なエージェント群を組み合わせ、単一のエージェントでは解決困難な複雑なタスクに対応します。たとえば、フロントエンド担当エージェント、バックエンド担当エージェント、テスト担当エージェントが協調して一つのアプリケーションを開発する、といった世界観です。

開発者としては、「エージェント間のインターフェース設計」という新しいスキルセットが必要になるかもしれません。人間同士のチームワークと同様に、エージェント間の役割分担とコミュニケーション設計が重要になってきます。

その他の注目トレンド

残りの5つのトレンドも簡単に触れておきます。

AIスーパーコンピューティングプラットフォームは、CPU、GPU、AI ASIC、ニューロモルフィックコンピューティングを統合したハイブリッド計算環境です。2028年までに主要企業の40%が採用するとされています。

プリエンプティブ・サイバーセキュリティは、攻撃が発生する前に対処する予測的なセキュリティを指します。2030年までにセキュリティ支出の半分を占めると予測されています。

デジタル来歴は、コンテンツやコードの真正性を保証する技術(C2PA、SBOMなど)です。投資しない企業は数十億ドル規模の制裁リスクに直面する可能性があるとのこと。

AIセキュリティプラットフォームは、プロンプトインジェクションやデータ漏洩など、AI特有のリスクを一元管理・防御するプラットフォームです。

物理AIは、センサーからの入力をリアルタイムで知覚・推論し、アクチュエータを通じて物理世界に作用するAIシステムを指します。

私の見解

このレポートを読んで感じたのは、「規模の縮小と深化」というトレンドです。

汎用LLMから「ドメイン特化型(DSLMs)」へ、大規模開発チームから「AIネイティブな極小チーム」へというダウンサイジングと専門化の傾向が見られます。

また、「信頼のハードウェア化」も重要なポイントです。ソフトウェアレベルのセキュリティだけでなく、コンフィデンシャルコンピューティングによるハードウェアレベルでの信頼性保証が必須要件になりつつあります。

2026年に向けて、開発者は「AIを使いこなす」から「AIと協働する体制を設計する」へとマインドセットを転換する必要がありそうです。

まとめ

ガートナー2026年トレンドから開発者が押さえるべき5つのポイントは以下の通りです。

  • AIネイティブ開発プラットフォームで「Tiny Teams」時代が到来
  • コンフィデンシャルコンピューティングで「処理時暗号化」が標準に
  • ドメイン特化型言語モデル(DSLMs)でハルシネーション低減
  • ジオパトリエーションでデータ主権への対応が必須に
  • マルチエージェントシステムで「エージェント間設計」が新スキルに

2026年は遠い未来ではなく、今から準備すべき「すぐそこの現実」です。

参考リンク

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